備えておきたい相続の基本

 「兄弟は他人のはじまり」という言葉がありますが、その争いのタネになりがちなのが相続の問題。けれど、最低限必要な知識さえあれば円満解決の糸口になるはずです。押さえておきたい相続の基礎について、弁護士の河野聡先生にお伺いしました。

法定相続人と財産の範囲

遺産を相続できる人は、法律ではどう決められていますか?

 遺産を残して亡くなった人を「被相続人」、遺産を相続できる人を「相続人」と呼びます。法律で定められている「法定相続人」は、被相続人の配偶者、子、孫、父母、祖父母、兄弟姉妹にあたる人と定められていますが、その全員が相続できるわけではなく、優先順位とそれぞれ相続できる財産の配分が決まっています(図1参照)。

図1

優先順位ですが、まず配偶者は必ず相続できます。そして第1順位が子と孫。このとき妊娠中の胎児や養子、非嫡出子も子と同じで、半血兄弟姉妹は全血兄弟姉妹の2分の1の額を相続できることになっています。そして第2順位が父母、祖父母。第3順位が兄弟姉妹で、兄弟姉妹が死亡している場合はその甥と姪が相続人となることができます。

財産というとどの範囲まで相続の対象となるのでしょうか?

 主なものとして挙げられるのは、被相続人名義の預貯金、不動産、動産、有価証券など。例えば交通事故で亡くなった場合の慰謝料も対象となります。これらを「プラス財産」といいますが、もう一つ覚えておいていただきたいのは、借金や保証債務など「マイナス財産」と呼ばれるものも相続しなければならないということです。もしかするとその借金の額は、相続するプラス財産より大きいかもしれません。その場合は「相続放棄」や「限定承認」という手段を選択することができます。
 「相続放棄」とは、プラス財産とマイナス財産の両方をいっさい相続しないというもの。そして「限定承認」は、プラス財産の範囲内でマイナス財産を支払い、それでもマイナス財産が残った場合は支払いの責任を負わないというものです。どちらを選択するにせよ、被相続人の死後3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。しかし、3カ月が過ぎた後で被相続人宛に借金の督促状が届いたり、悪質な業者がわざと3カ月経過して通知するというケースもありますので、その場合は借金の存在を知ってから3カ月間手続きができます。また、借金の有無を把握するのに時間がかかる場合は、期間の延長を申し立てることも可能です。それ以外の理由がなく3カ月以内にどちらの申請もしなかった場合は、「単純承認」といいプラス財産、マイナス財産のすべてを相続するものとみなされます。
 そのほか、分け合うことのできる財産と勘違いされがちなのが「生命保険金」や葬儀の「香典」です。被相続人の生命保険金は、受取人に指定された人のものとなります。葬儀の香典は原則として、葬儀を主催する立場である喪主に受け取る権利があります。法定相続人全員が合意の上でこれらを分け合うというのなら問題はありませんが、法的には相続財産の範囲に入りませんので注意が必要です。

よくトラブルになりがちな例にはどういったケースがありますか?

 遺言に基づいて法定相続人やそれ以外の人に法定相続分より多くの財産が相続される場合、あるいはすでに生前贈与が行われていた場合には、それを知らなかった家族と遺言で指定された相続人などとの間でトラブルが起こることがあります。そういった場合には「遺留分」が適用されることを覚えておきましょう。
 被相続人の生前贈与、遺言によって法定相続人やそれ以外の人に法定相続分よりたくさんの財産が渡った場合、法定相続人にも一定の割合の財産を残す制度があります。これを「遺留分」と言い、法定相続人の生活保障の意味合いを持つものです。対象となる法定相続人とその割合は、配偶者と子が法定相続分の2分の1、父母が法定相続分の3分の1となっています。兄弟姉妹には遺留分はありません。
 それから、「寄与分」や「特別受益」についても知っておいたほうが良いですね。例えば被相続人に対して「事業に多大な貢献をした」「何年も寝たきりの介護をした」など、特別な貢献をした人に対して相続割合を増やす制度が「寄与分」です。また、被相続人の生前に多くの財産を受け取っていた人について、その財産をいったん持ち戻して、相続分を計算するという制度を「特別受益」と言います。

相続の手続き

被相続人の死後、相続手続きはどう進めればよいですか?

 遺言が残っている場合は、その通りに手続きをすればよいので問題ありません。ただし遺言にも、公証人が作成した「公正証書遺言」と被相続人の自筆による「自筆証書遺言」があり、前者の場合はその内容通り直ちに財産の分配を行うことができます。他方、自筆の場合、いったん法定相続人となる人全員を家庭裁判所に呼び出して、検認という確認作業が行われます。その後、遺言通りに手続きができますが、もし自筆の遺言に必要な日付と名前と印鑑がなければ、遺言は無効になり、訴訟で確定されることになります。
 最近は、認知症や脳梗塞を発症するなどして、遺言を残す前に判断能力を失ってしまう人も増えています。しかし、相続の手続きを円滑に進めるには遺言が大切な手段となります。遺言の内容は、財産の範囲と相続人についての記載はもちろん、寄与分や特別受益のことも考慮したうえで、自分の思いを貫けるものであるのが理想的です。相続する側から「遺言を書いて」と切り出すのは縁起が悪いと言われそうで敬遠されがちですが、親のため、ひいては自分のためにも、言ってあげた方が良いと思います。

相続税の申告

相続した財産についてかかる税金のしくみを教えてください。

図1

 平成27年1月から相続税が改正され、以前よりも基礎控除の額が引き下げられました。そのため、相続税の申告をする義務のある人が増えています(図2参照)。ただし、配偶者は控除の額が大きく、法定相続分の相当額、あるいは1億6千万円のどちらか多い方まで相続税がかかりません。いずれにせよ、相続税の申告は原則として被相続人の死を知った日から10カ月以内に行うよう定められています。
 相続については、最低限の知識を持っておくことが必要です。大分県弁護士会を始め、さまざまな弁護士、司法書士が無料相談を行っていますので、相続に直面した際、あるいは事前に備えておきたい場合は、気軽に相談してみましょう。

河野 聡 さん

弁護士

河野 聡 さん

1985年 大阪大学法学部卒業。
1988年 大分県弁護士会に弁護士登録。
1991年 市民総合法律事務所設立、2002年、弁護士法人に。
2015年 西日本家族信託支援協会代表理事に就任。

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